「浜松で車がないと生きていけない」。 これは決して大袈裟な表現ではありません。全国トップクラスの免許保有率と自家用車普及率を誇る浜松市。しかし、それは裏を返せば公共交通機関だけでは生活が成立しないことの証明でもあります。
特に深刻なのが、市民の足を悩ませる「東西移動の壁」です。
1. 「浜松駅中心」の放射状バス網の限界
遠鉄バスの路線図を広げてみると、ある奇妙な事実に気づきます。 路線のほぼ全てが、JR浜松駅バスターミナルを中心とした放射状に伸びているのです。
「横移動」ができない構造的欠陥
この構造の最大の弊害は、郊外から郊外への移動(横移動)が極めて困難だという点です。 例えば、東区の自宅から西区のイオンモールに行きたい場合、物理的な距離は近くても、バスで行こうとすると「一度浜松駅に出て、別のバスに乗り換える」必要があります。
- 時間ロス:直線なら30分で着く距離に、乗り換え含めて1時間以上かかる。
- コスト増:運賃も倍近くかかる。
これでは「車で行こう」となるのは当然です。過去には「環状バス(くるるなど)」の実証実験も行われましたが、利用者が伸びずに定着しませんでした。市民の生活パターンが既に「車前提」で最適化されてしまっているため、鶏と卵の問題に陥っています。
2. 鉄道アクセスの偏り
鉄道網もまた、浜松の移動を制限しています。
- JR東海道線:東西を貫く大動脈だが、駅間が長い。
- 遠州鉄道(赤電):南北を結ぶが、カバーエリアは限定的。
いわゆる「駅近」エリア以外は、公共交通の空白地帯です。特に北西部や南部エリアは、バスの本数も減便傾向にあり、高齢者の免許返納後の生活維持が深刻な課題となっています。
3. 次世代交通システムへの期待と失望
この状況を打破する「夢の交通システム」として、かつて期待されていたものがありました。
LRT(次世代路面電車)構想の事実上の断念
かつてはLRT導入によるコンパクトシティ化が議論されましたが、現在は事実上断念されています。
数百億円規模の導入コストと、既存道路の拡幅が必要なことへのハードルが高すぎたためです。市は「既存のバス路線の維持・最適化」へと現実的な舵を切りました。
自動運転バス・MaaSの現在地
代わりに進められているのが、「浜松自動運転やらまいかプロジェクト」などの**MaaS(Mobility as a Service)**実証実験です。
庄内地区など特定のエリアでレベル2〜4の自動運転バスが走っています。アンケートでは利用意向95%と受容性は高いものの、これはあくまで「地域限定の足」であり、市全域の移動問題を解決するものではありません。
4. 車社会の弊害:慢性的な渋滞と通学路の危険
公共交通が弱いがゆえに、全ての移動負荷が「道路」にかかります。
- 朝夕の慢性的な渋滞:主要幹線道路は常に混雑。
- 通学路の危険:歩道が狭い生活道路にも抜け道として車が入り込む。
「車がないと就職もできない(通勤できない)」という現実は、若者の経済的負担や、高齢者の社会参加の妨げにもなっています。
まとめ:ラジカルな交通網再編なしに未来はない
現状、浜松で「車なし生活」を送ることは、駅周辺に住まない限り無理ゲーに近い状態です。
しかし、人口減少と超高齢化が進む中、いつまでも「1人1台」を維持することは不可能です。 LRTのようなハード整備が無理だとしても、既存バス網をAIで最適化したり、オンデマンド交通を普及させたりする「ソフト面での交通革命」こそが急務です。
「駅に行かないバス(環状線・拠点間移動)」が当たり前に走る街になれるか。それが浜松の持続可能性を左右します。
