多くの地方都市と同様に、浜松市も人口減少のフェーズに入っています。しかし、その中でも特に深刻なのが「若者の流出」です。 進学や就職を機に浜松を離れ、そのまま戻ってこない。彼らの行き先は東京、そしてお隣の「名古屋」です。
なぜ、政令指定都市であり、世界的企業を擁する浜松市から若者が去ってしまうのか? 「遊ぶ場所がない」「仕事がない」という定型句の裏にある、構造的なミスマッチを紐解いていきます。
1. 若者が感じる「浜松の不足」とは
「週末、どこ行く?」と聞かれた浜松の若者の答えは、大きく分けて2つしかありません。「イオン」か、「名古屋」かです。
娯楽・文化施設の偏り
浜松市に「遊ぶ場所」がないわけではありません。飲食店も多いですし、パチンコ店などの遊技場も豊富です。しかし、これらは昭和〜平成初期の大人向けの遊び場であって、Z世代が求める「トレンド」や「体験」を提供する場ではありません。
アンケートやSNSの声を見ると、不満の核心は「非日常感の欠如」にあります。 最新のファッションブランド、話題のカフェ、サブカルチャーのイベント。これらを摂取しようとした時、浜松市内には選択肢が少なく、新幹線で30分の名古屋へ出るのが「正解」になってしまいます。
転出超過の現実
2022年のデータにおいて、静岡県は全国ワースト8位の転出超過を記録しました。その中心にいるのが15歳〜29歳の若年層です。 彼らは「なんとなく」出ていくのではなく、「浜松には自分の求める未来がない」と判断して出ていっています。
2. 「仕事がない」の正体
「浜松にはスズキもヤマハもある。仕事はあるはずだ」と考えるのは、世代間の認識ギャップの象徴です。確かに有効求人倍率は悪くありませんが、そこには大きなミスマッチが存在します。
深刻な「職種の偏り」
浜松市は世界に誇る「ものづくりの街」です。製造業の現場や、それに関連する技術職の求人は無数にあります。 しかし、大卒の若者、特に女性が希望する職種(IT、クリエイティブ、広報・マーケティング、リモートワーク可能な事務職など)の受け皿はどうでしょうか?
製造業の管理部門を除けば、市内に「中規模でお洒落なオフィスで、ホワイトカラーとして働く」という選択肢は驚くほど少ないのが現状です。 「工場勤務か、それ以外(接客など)か」という二極化が、多様な働き方を求める若者を市外へと押し出しています。
女性の流出が止まらない
特に深刻なのが女性の流出です。大学進学で東京や名古屋に出た層が、Uターン就職しようにも「戻れる(戻りたい)会社がない」という現実に直面します。 これは個人のワガママではなく、産業構造の転換が遅れている都市側の課題と言えるでしょう。

3. なぜ「名古屋」なのか
東京への流出は以前からありましたが、近年は名古屋(愛知県)への流出が目立ちます。なぜ若者は名古屋を選ぶのでしょうか。
「ほどよい都会」の居心地
名古屋は、周辺県(静岡、岐阜、三重)からの20代転入超過都市です。 東京ほど競争が激しくなく、家賃も(東京に比べれば)現実的。それでいて、ライブやイベントの開催地として飛ばされることもなく、商業施設も充実している。この「圧倒的な都市規模の差」が、若者にとってのQOL(生活の質)の差として映ります。
職と住のバランス
名古屋には、多数の本社機能が集積しており、職種のバラエティが豊富です。 「浜松に住んで名古屋に通う(新幹線通勤)」という選択肢もありますが、若者にとっては「名古屋のキラキラした空気感の中で暮らしたい」という憧れの方が勝ります。 定期代を払って往復するよりも、名古屋に住んでしまった方が「楽しい生活」が手に入るのです。
4. 浜松市ができる現実的な対策
では、浜松市はどうすべきか? 若者向けに新しい商業施設(ハコモノ)を作るだけでは、名古屋には勝てませんし、すぐに飽きられます。
ソフトパワーとコミュニティの強化
必要なのは、建物ではなく人と仕事のアップデートです。
- IT・クリエイティブ企業の誘致: 製造業以外の選択肢を増やす。
- サテライトオフィスの聖地化: リモートワークなら浜松の住環境(広さ、気候)は最強の武器になります。
- ダサくないブランディング: 「平日は東京の仕事をリモートで、週末は海でサーフィン」といった、浜松独自のライフスタイルのロールモデルを可視化すること。
まとめ:未来へのワクワク感が人を引き留める
若者が浜松を去る最大の理由は、物理的な施設の不足以上に、ここで暮らす自分のワクワクする未来が描けないことにあります。
「仕事がない」のではなく「つきたい仕事がない」。 この現実に目を向け、産業構造の多様化と、ライフスタイル提案の強化を進めること。それが、人口流出に歯止めをかける唯一の道ではないでしょうか。
