「コーラが高くて買えないから、水を飲もう」
そんな未来が、すぐそこまで来ているのかもしれません。 WHO(世界保健機関)が、砂糖入り飲料やアルコールへの課税を強化するよう各国に求めています。いわゆる「健康税(Health Tax)」です。
日本ではまだ馴染みの薄いこの言葉ですが、世界ではすでに45カ国以上で導入され、確実な成果を上げていることをご存知でしょうか? 今回は、この「健康税」が私たちの生活をどう変えるのか、海外の事例と日本の現状を交えて解説します。
健康税(Sin Tax)とは何か?
「健康税」は、健康を害する恐れのある製品に課税することで、消費を抑制し、国民の健康を守ろうとする税制です。経済学的には「罪悪税(Sin Tax)」とも呼ばれます。
代表的な例はタバコ税や酒税です。 これらは「値上げ」によって購入のハードルを上げ、健康被害(肺がんや肝臓病など)を減らす狙いがあります。
WHOはこれに加え、肥満や糖尿病の原因となる「砂糖入り飲料(ソフトドリンク)」も同様に規制すべきだと提言しているのです。
世界の実験場:イギリスとメキシコの成功事例
「たかが数十円の値上げで、人は変わらないでしょ?」と思うかもしれません。しかし、データは意外な結果を示しています。
イギリス:メーカーを変えた「段階的課税」
イギリスでは2018年に「ソフトドリンク産業課税」が導入されました。 面白いのは、砂糖の含有量に応じて税率が変わる点です。
- 5g未満/100ml:非課税
- 5g〜8g/100ml:低税率
- 8g以上/100ml:高税率
この仕組みにより、飲料メーカーは「税金を払いたくないから、砂糖の量を減らしてレシピを変えよう(リフォーミュレーション)」と動きました。
結果、市販される飲料の砂糖含有量は劇的に減り、国民(特に子供)の砂糖摂取量削減に成功しました。
メキシコ:水への回帰
肥満大国として知られたメキシコでは、2014年に約10%の価格上乗せとなる課税を実施。
導入後、砂糖入り飲料の購入量は平均6%以上減少し、逆にボトル入り水の購入が増加しました。さらに、得られた税収は学校への給水機設置や、糖尿病治療の財源に充てられています。
「甘さ」の代償とジレンマ
一方で、副作用もあります。
「人工甘味料ならOK」なのか?
イギリスの例でも分かる通り、砂糖を減らす代わりに人工甘味料への置き換えが進む傾向にあります。
「カロリーは減ったが、人工甘味料の健康リスクはどうなのか?」「そもそも味が落ちた」といった新たな議論も生まれています。
逆進性の問題
タバコ増税の時も議論になりましたが、生活必需品に近い食料品への課税は、低所得者層にとってより重い負担(逆進性)となります。 「健康はお金持ちの特権」になってしまわないか、慎重な議論が必要です。
日本でも導入される? 立ちはだかる「見えない壁」
さて、日本で「砂糖税」は導入されるのでしょうか? 実は、日本には「調整金」という独自のシステムが存在します。
輸入される安価な砂糖には、国内のサトウキビ農家などを保護するために、実質的な関税のような調整金が上乗せされています。 つまり、私たちはすでに世界的に見ても高い砂糖を買わされているのです。
ここにさらに「健康税」を乗せることは、二重・三重の課税となるため、製糖業界などからの反発は必至です。
厚生労働省の提言(保健医療2035)などで議論には上がっていますが、今のところ具体的な導入の動きはありません。しかし、少子化対策や医療費増大の財源確保の一環として、いつターゲットになってもおかしくないのが現状です。
まとめ:自分の健康は自分で選ぶ時代
WHOの提言は、単なる増税の口実ではなく、「社会全体の環境を変える」という強いメッセージです。
日本で税金が導入されるかどうかに関わらず、「砂糖の過剰摂取はタバコと同じくらいリスクがある」という認識は、自身の健康を守る上で重要な視点となるでしょう。
次にコンビニで甘いジュースを手に取る時、その一本が「自分へのご褒美」なのか、それとも「将来への負債」なのか、少しだけ考えてみてもいいかもしれません。
