eスポーツアスリートを支える、もうひとつの「武器」
先日、映画監督のAlvin Zhou氏が公開したドキュメンタリーを見たんですが、これがめちゃくちゃ面白かったんですよ。
映し出されているのは、韓国の伝説的eスポーツチーム 「T1」 の裏側です。
画面にあるのは、トロフィーを掲げる選手たちの華やかな姿……ではなく、1日10時間以上座り続け、極限の集中力を要求される彼らの 日常の食卓 でした。
League of Legends(LoL)の世界王者であるFaker選手をはじめとするT1メンバー。彼らを支えているのは、専属シェフによる緻密な栄養管理と、まるで母親のような献身的な愛情だったんです。
「食がスポーツを支える」
これって、陸上競技だろうとeスポーツだろうと変わらない事実なんですよね。
でも、ふと思いました。なぜ日本のプロチームから「T1レベル」のチームがなかなか生まれないのか?
その理由は、技術や才能じゃなくて、もっと根深い 文化的背景 にあるんじゃないかと思ったんです。
T1の専属シェフが果たす役割とは
栄養管理と精神的支柱を兼ねる存在
T1の専属シェフの仕事って、単に「食事を作る」ことだけじゃないんです。
選手たちは1日10時間以上座りっぱなし。マウスとキーボードのわずかな操作で勝敗が決まる、まさに極限の世界に身を置いています。
そんな彼らにとって、食事は パフォーマンスを支える燃料 であり、同時に 心の安定をもたらす癒やし でもあるんですよね。
シェフはタンパク質と野菜を中心とした栄養バランスを管理しながら、選手一人ひとりの好みやコンディションに合わせたメニューを提供しているそうです。
- Zeusは麺類が好き
- Keriaは一時期セロリにハマっていた
- Onerは肉料理を好む
- Gumayusiはビビン冷麺が定番
- Fakerは麻辣湯などの辛い料理を愛する
こうやって書き出すと、ただのワガママ注文に見えるかもしれません(笑)。
でも、こうした個別対応は単なるサービスじゃなくて、選手たちに「家のような安心感」を与えるための戦略なんです。
シェフ自身もドキュメンタリーの中で、「彼らを自分の子供のように思っている」と語っていました。ここがすごい。
試合前の「特食」文化
LCK(韓国リーグ)の決勝戦とか、ここぞという重要な試合前には、ステーキやロブスターといった豪華な 特食 が用意されるそうです。
これ、栄養補給だけじゃなくて、選手たちの士気を高めるための儀式なんですよね。
「これだけいいもん食べたんだから、勝つしかないだろ!」っていう。
陸上選手が本番前に特別な食事(カーボローディングとか)を摂るように、eスポーツ選手もまた、食によって心と体を整える。その構造は何も変わりません。
深夜の練習後にも細やかなケア
選手たちの練習は深夜から明け方まで続くこともザラです。
その後に提供される 夜食 は、胃腸に負担をかけない消化の良い韓国料理だとか。
辛すぎないタットリタンや豆腐の煮物など、体に優しいメニューが選ばれる理由は、翌日のパフォーマンスを落とさないため。
ここまで徹底してるんです。こうした細部へのこだわりが、T1を「世界最高峰のチーム」たらしめている要因の一つなんでしょうね。
食がスポーツを支える――陸上もeスポーツも変わらない
フィジカル競技とeスポーツの共通点
「eスポーツなんて座ってるだけだし、体動かさないから栄養管理なんて関係ないでしょ?」
そう考える人も多いかもしれません。
でも、それは大きな誤解です。
陸上選手は筋肉を動かすためにエネルギーを消費しますが、eスポーツ選手は 脳を酷使してエネルギーを消費 します。
極限の集中力を要する状況では、血糖値の乱高下が判断ミスを招きます。疲労が蓄積すれば、反応速度が0.1秒遅れるだけで敗北に直結する。
だからこそ、T1のような世界トップクラスのチームは、 食を戦略として捉えている んです。

それぞれに最適化された栄養管理が必要
陸上選手には陸上選手の、eスポーツ選手にはeスポーツ選手の、最適な栄養バランスがあります。
- 陸上選手 : 持久力と瞬発力を支える炭水化物とタンパク質
- eスポーツ選手 : 集中力を維持するビタミンB群、抗酸化作用のある野菜、脳のエネルギー源となる良質な脂質
どちらも「その競技特性に合わせた栄養設計」が必要だという点では同じなんですよね。
eスポーツが「スポーツ」として認められるべき理由は、まさにここにあると私は思います。
T1本社の圧倒的な環境――なぜここまでできるのか
米韓連合による桁違いの資金力
T1の本社ビル、見たことありますか? ソウル江南区にそびえる地上10階建ての自社施設ですよ。
「ゲームチームのビル」ってレベルじゃありません。
この施設を支えているのは、 SK Telecom(韓国最大の通信大手) と Comcast Spectacor(米メディア大手) によるジョイントベンチャーという強固な資本構造です。
eスポーツチームが「ゲーミングハウス(宿舎兼練習場)」から「プロスポーツ組織の本拠地」へと進化した、象徴的な存在と言えます。
選手を支える充実した福利厚生
T1本社には、こんな設備が完備されてるそうです。
- 専用食堂 : 栄養管理されたビュッフェ形式の食事
- ジム : Nikeが監修したフィジカルトレーニング施設
- ストリーミングスタジオ : 選手が個人配信を行うための防音室
- リラックスラウンジ : カラオケ、ビリヤード、最新マッサージチェア完備
- T1 Base Camp : 一般客も利用できるカフェ兼PCバン(ネットカフェ)
これらはすべて、選手たちが「競技だけに集中できる環境」を整えるために設計されています。
羨ましい……いや、ここまでくると畏敬の念すら抱きますね。
育成システムの徹底――ファームからトップチームへ
T1の強さを支えるもうひとつの柱が 「育成(ファーム)システム」 です。
現在の主力メンバー(Zeus、Oner、Gumayusi)は、全員がT1アカデミー出身なんですよ。
他チームがスター選手を引き抜く「銀河系軍団」作りをする中、T1は「自社ビルで育てた子供たち」と「生ける伝説Faker」による家族のような結束で世界一を獲りました。
この「血のつながり」のような絆が、単なる契約関係では生まれない強さの源泉となっているんでしょうね。
なぜ日本からT1レベルのチームが生まれないのか
さて、ここからが本題です。
なぜ、日本からはこういうチームが生まれないんでしょうか?
文化的背景①:個の没入か集団競争か
日本のゲーム文化って、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーといった 「RPG(個人の物語への没入)」 を中心に発展してきましたよね。
一方、韓国や欧米では、StarCraftやLoLのような 「RTS/MOBA(リアルタイム戦略・集団競争)」 が主流でした。
格闘ゲーム(ストリートファイター、鉄拳)で日本が世界トップレベルなのは、「職人芸」や「個人の修練」を尊ぶ日本の武道的精神と相性が良いからだと思うんです。
1対1なら負けない。
しかし、LoLやValorantのようなチームゲームには「軍隊的な組織論」が必要になります。
日本は「強い個人を5人集めれば勝てる」という発想から抜け出せていないチームが多くて、 「育成システム」「データアナリスト」「メンタルケア」といった裏方への投資が圧倒的に不足している 気がします。
文化的背景②:スポンサーの「広告枠」意識
T1の成功の背景には、親会社が「eスポーツを単なる若者向けの広告枠」として見ていないことがあります。
彼らはeスポーツを 事業の核心 として位置づけ、通信インフラやメディア事業とのシナジーを本気で生み出そうとしています。
一方、日本のスポンサー企業の多くは、まだeスポーツを「CSR(社会貢献)」や「少し変わったWeb広告」くらいの感覚で扱っているんじゃないでしょうか。
「ロゴを出したから、いくら売上が上がるのか?」
この短期的ROI(投資対効果)を求める姿勢のままでは、T1のような長期的な組織作りは実現しないでしょうね。
文化的背景③:「規律」と「チームゲーム」のミスマッチ
日本の組織における規律って、「マニュアル通りに動くこと」とか「空気を読んで和を乱さないこと」に重点が置かれる傾向がありませんか?
これはRPG(決められたルートを進む)にはプラスに働きます。
でも、LoLやValorantで求められるのは、状況がカオスになった瞬間に 全員が阿吽の呼吸で「型を破る」判断 を下すことなんです。
T1のような強豪は、軍隊的な規律を持ちつつも、戦闘中は個々がエゴを出して有機的に動きます。
日本のチームは「言われた通りの作戦」を遂行するのは得意ですが、 想定外の事態で「誰が責任を取って決断するか」という局面でフリーズしやすい 。
これが「規律重視なのにチームゲームで勝ちきれない」というジレンマの正体な気がしてなりません。
文化的背景④:「エンタメ偏重」という生存戦略
そしてもう一つ。
日本におけるeスポーツは、「スポーツ(競技)」というよりも、 「キャラクタービジネス(2.5次元エンタメ)」 として独自の進化を遂げています。
ZETAやCrazy Raccoonといったチームの成功は、競技の強さ以上に「物語とキャラクター性」を売った結果ですよね。
ファンは試合の勝敗以上に、「ドラマ」「関係性」「切り抜き動画での面白さ」を消費します。
この構造下では、 「世界大会で優勝する無口な職人」よりも、「国内大会止まりだが、配信が面白くて愛嬌のあるタレント」の方がビジネスとして成功しやすい んです。
これって、VTuberのビジネスモデルと全く同じですよね。収益源も「スパチャ」「グッズ」「イベント」が主軸ですし。
つまり、日本のeスポーツは「推し活ビジネス」として成立してしまっている。これが良い悪いではなく、事実としてあるわけです。

それでも希望はある――ZETAとCRの可能性
とはいえ、日本で唯一、世界レベルのビジネスモデルに近づいているのが「ZETA DIVISION」と「Crazy Raccoon (CR)」です。
彼らは競技の成績もさることながら、アパレル、ストリーマー、イベント(CRカップなど)を通じて、 「ゲームをしない層」まで巻き込んだファンコミュニティ(文化) を作っています。
「チームを応援すること自体がカッコいいファッションである」という ライフスタイルブランド化 に成功しつつある。これは本当にすごいことです。
まとめ:日本独自の「ハイブリッドモデル」を目指せ
T1の専属シェフが示したのは、単なる料理の話ではなく「勝つための裏側」でした。
華やかなトロフィーの裏には、無数の裏方の献身がある。その中でも「食」は、選手たちの体と心を支える最も基本的で、最も重要な要素です。
これ、私たちビジネスパーソンも同じですよね。パフォーマンスを最大化するためには、「食」という土台が不可欠です。
そして、日本がT1のようなチームを生み出せないのは、才能の問題じゃない。
文化的土壌、投資マインド、組織運営の思想 ――その全てが揃って初めて、世界最高峰のチームは生まれるんだと思います。
もしかしたら、日本が選ぶべき道はT1の模倣ではなく、 日本独自の「推し活×競技」のハイブリッドモデル の完成なのかもしれません。
皆さんはどう思いますか?
それでは、また。