2024年1月1日。浜松市は大きな決断を実行しました。 長年慣れ親しんだ7つの行政区(中・東・西・南・北・浜北・天竜)を廃止し、中央区・浜名区・天竜区の3区へと再編したのです。
あれから2年(※執筆時点の設定)。 行政側が謳っていた「効率化」と「コスト削減」は、果たして市民の暮らしを良くしたのでしょうか? 実態を検証します。
1. 住所変更の混乱は収まったか
施行当初、最も懸念されていたのは住所変更の手間でした。 公的な書類やシステムは自動で書き換わりましたが、民間のWebサービスや通販サイトの登録住所変更は個人の作業に委ねられました。
「中区」「東区」といった旧区名が消えたことによる混乱は、時間と共に沈静化しつつあります。 しかし、古くからの住民からは「地域のアイデンティティが失われた」という喪失感の声も依然として聞かれます。 町名に誇りを持っていた層にとって、画一的な「中央区」への統合は、心理的な距離感を生んでしまったようです。
2. 「窓口が遠くなった」問題とデジタルの壁
区再編の裏テーマは、行政のスリム化とデジタル化です。
「書かない窓口」の功罪
市は窓口業務のデジタル化を推進し、中央区役所などでは「書かない窓口」を導入しました。 これにより、手続きの待ち時間が最大3割短縮されたというデータ(市発表)もあります。これは間違いなく「改善」です。
繁忙期の現実は変わらず
しかし、引っ越しシーズンの3月〜4月になると、窓口は相変わらず大混雑しています。 また、「デジタル化で行かなくていい」を目指した結果、高齢者などのデジタル弱者が取り残され、「最寄りの協働センター(旧区役所)では手続きができず、遠くの中央区役所まで行かなければならない」という物理的な不便も発生しています。 「速くなった」実感と、「そこに行くまでが遠い」不満。この乖離が埋まっていません。
3. 「6.5億円の削減効果」はどこへ?
再編の最大のメリットとして提示されたのが、年間約6億5,000万円のコスト削減効果です。 これは主に、管理職ポストの削減や事務の効率化による人件費の圧縮です。
では、この浮いた6.5億円で、市民サービスは良くなったのでしょうか? 市民に聞いてみても、こんな答えが返ってきます。
- 「道路の穴、直ってないよ?」
- 「子育て支援が劇的に増えた感じもしない」
- 「税金が安くなったわけでもない」
残念ながら、市民生活への直接的な還元は見えないのが現状です。
この6.5億円は、人口減少に伴う税収減を補填するための「守りのコストカット」であり、新たなサービスを生むための「攻めの原資」にはなり得ていないのかもしれません。
4. 住民自治の希薄化懸念
区が巨大化したことで、地域の細かい要望が区長や行政に届きにくくなる「住民自治の希薄化」も懸念されています。 「地区コミュニティ協議会」などが設置されましたが、その活動が一般市民に認知され、機能しているとは言い難い状況です。
まとめ:効率化は達成したが、幸福度は上がったか?
行政区再編は、組織の維持・存続という意味では必要な手術でした。その点において、行政側の目標(効率化)はおおむね達成されたと言えるでしょう。
しかし、市民側の視点に立った時、そこに「幸福度の向上」はあったでしょうか? 答えは現時点では NO と言わざるを得ません。
「何も変わっていないなら、ただ不便になっただけ」。 そんな評価で終わらせないためには、削減効果によって生み出されたリソースを、目に見える形で市民サービス(例えば子育て支援の拡充や交通網整備など)に転換していく「第2フェーズ」の成果を、早急に示す必要があります。