人口約78万人。静岡県最大にして、県内唯一の政令指定都市、浜松市。 スズキ、ヤマハ、カワイ、ホンダ発祥の地。うなぎ、餃子、浜名湖。
これだけの強力なコンテンツを持ちながら、なぜ「影が薄い」と言われてしまうのでしょうか? 市民として薄々感じていたその感覚は、残酷なデータとして証明されています。
1. データが示す「知られているが愛されていない」現実
ブランド総合研究所が発表した「地域ブランド調査2024」。ここでの浜松市の順位は衝撃的でした。
- 認知度:全国32位
- 魅力度:全国47位
認知度はそこそこ高い(32位)のです。「浜松?知ってるよ、うなぎでしょ」というレベルでは認識されています。 問題は魅力度(47位)の低さです。「知ってるけど、特に行きたいとは思わない」「住みたい街の候補には挙がらない」。 これが、今の浜松市の立ち位置です。
キラーコンテンツの不在
浜松には「有名なもの」がたくさんあります。 しかし、ディズニーランドやUSJ、あるいは「金沢の兼六園」「京都の寺社」のような、わざわざそこに行くためだけに旅をするほどの絶対的なキラーコンテンツがありません。 結果として、東京と大阪の間にある「通過点」として消費されてしまっています。
2. 内向きな「やらまいか」とPRの限界
浜松市のスローガン「やらまいか(やってやろうじゃないか)」。 この精神は産業界では大成功を収めましたが、都市のブランディングとしては内向きに作用してしまっているかもしれません。
PR予算の効果は?
浜松市は2025年度のシティプロモーション事業に約6,600万円の予算を計上しています。 「やらまいか大使」に著名人を任命し、名刺特典(施設無料)などを付与していますが、その効果が一般市民や定住人口の増加にどれだけ寄与しているかは不透明です。
成功自治体との違い
ブランディングに成功している自治体は、メッセージが鋭く絞り込まれています。
- 明石市:「子育て支援全力」
- 福岡市:「スタートアップと食の都」
- 流山市:「母になるなら、流山市」
対して浜松市は、「産業も、観光も、子育ても、自然も」と全方位にいい顔をしようとしすぎて、結果として誰の心にも刺さらない「幕の内弁当」のようなPRになってしまっています。
3. 税金を使ったPRへの批判
「シティプロモーション」という名目で使われる税金に対し、市民の目は年々厳しくなっています。 「ゆるキャラを作ったり、ポスターを貼ったりするだけで人が来ると思っているのか?」 「PRして市民が増えるならいいが、ただの自己満足なら税金の無駄だ」
真に必要なのは、広告を打つことではなく、広告したくなるような街の実態を作ること(前述の記事で触れた交通網や子育て支援の拡充など)であることを、市民は直感的に理解しています。
4. 提案:浜松が売るべき「尖った物語」
では、浜松はどう戦うべきか? スペック(人口や面積、日照時間)をアピールするのはもうやめるべきです。スペックで東京や大阪に勝つのは不可能です。 売るべきは「ストーリー」です。
- 「日本一の起業家精神(アントレプレナーシップ)の街」: 新しいことを始める人を全力で応援する土壌。
- 「多文化共生の最先端」: ブラジル人コミュニティなどとの共生を「課題」ではなく「独自のカルチャー」として発信する。
これらは他の都市にはない、浜松だけの「尖った」魅力になり得ます。
まとめ:嫌われる勇気を持って「ターゲット」を絞れ
「全ての人に好かれようとする人は、誰からも好かれない」。これは対人関係だけでなく、都市ブランディングにも当てはまります。
認知度32位、魅力度47位という現状打破に必要なのは、「誰に来てほしいか」を徹底的に絞り込む勇気です。 「なんとなくいい街」から脱却し、「〇〇な人にとっては最高の街」へ。 今の浜松市政に必要なのは、このエッジの効いた戦略転換なのかもしれません。