スーパーでおなじみのもやし。 1袋わずか20〜30円という驚きの価格で並んでいますが、 光熱費や人件費が高騰する今、この安さはいったいどうやって成り立っているのでしょうか。
今回は、もやし工場の仕組みと利益構造に焦点を当て、 「安すぎるのに続けられる」その秘密を紐解きます。
もやし工場のリアル:わずか5日で商品になる"植物工場"
土を使わない完全屋内栽培
もやしは、わずか4〜7日ほどで出荷できる"最速級の野菜"です。 工場内で温度・湿度・水分を徹底管理し、暗い環境で一気に発芽させる── まさに「植物工場」と呼ぶにふさわしい仕組み。
種をまいてから収穫までの工程はすべて屋内。 天候に左右されないため、一年中安定した生産が可能です。 発芽・成長・洗浄・袋詰めまでが自動化され、 人の手が入るのは品質チェックや清掃など最小限に抑えられています。
大量生産でコストを極限まで圧縮
大手工場では、1日で数十万袋単位のもやしを出荷することも。 ロスを最小化し、設備を24時間稼働させることで 「1袋あたりの固定費」を限界まで下げています。
この規模の効率化こそが、“20円でも回る"仕組みの第一歩なのです。
製造コストの内訳:1袋あたりの"真実の値段”
原料費(種子)
もやしの原料となるのは、主に中国やミャンマーなどから輸入される緑豆やブラックマッペ。 この種子価格は近年上昇しており、 「生産コストの約2割を占める」とも言われています。
光熱費・水・設備運転費
工場は温度・湿度・照明・換気を常に一定に保つ必要があります。 そのため光熱費が非常に高く、特に冬季の暖房・夏季の冷房が負担に。 しかし、もやしは育成期間が短いため、 光熱コストを"短期間で回収できる"というメリットもあります。
包装・流通コスト
もやしは日持ちが短いため、 収穫後すぐに洗浄→袋詰め→出荷という流れが続きます。 袋やラベルの素材代、配送用の冷蔵トラック代なども馬鹿になりません。 1円単位でコスト削減を行う努力が日々続けられています。
人件費と設備維持費
自動化されているとはいえ、機械の監視・清掃・品質検査・梱包作業などには人の手が必要です。 また、機械のメンテナンスや設備更新にも費用がかかります。 1袋あたりの純利益は数円程度──という現場の声もあるほど、 非常に薄利な構造です。
「それでも利益が出る」3つの理由
① 大量生産によるスケールメリット
最大の強みは、生産量の多さ。 たとえば1日100万袋を生産する工場で、1袋あたりの利益が1円でも、 日単位で100万円、月単位では数千万円の売上につながります。
大規模設備による効率化と、稼働率の高さが採算を支える柱です。
② スーパーの「目玉商品」戦略
スーパーにとってもやしは"集客の象徴"。 ほとんど利益を取らず、場合によっては赤字で販売することもあります。 「この店は安い」と感じてもらうための"ロスリーダー(誘引商品)“なのです。
もやしを目当てに来店した客が、ついでに他の商品を買う── この構造が、安売りを成立させる裏の仕組みです。
③ 自動化・ロスの少なさ
もやしは発芽率が高く、形やサイズの規格もシンプル。 選別や廃棄ロスがほとんど発生しません。 他の野菜と違って"虫食い"や"形崩れ"がなく、 歩留まり率が非常に高いため、コストを抑えやすいのです。
小規模生産者が苦しむ現実
一方で、個人や小規模の生産者は厳しい状況に置かれています。 同じように温度管理・光熱費・種子代がかかっても、 出荷量が少ない分、1袋あたりの固定費を分散できません。
大規模工場が"薄利多売"でなんとか回せる一方、 小規模では「薄利少売」になってしまい、利益を出しづらい構造です。
近年では、地域密着型のもやし生産者が次々と廃業しており、 もやし業界全体で生産者数が減少しています。 安価競争の中で、続けられない現実が広がっているのです。
価格の裏にある"社会的意義"と今後の課題
もやしは"庶民の味方"とも言われ、 家計が厳しい時でも手に入る救世主のような存在です。 しかし、その「安さ」を支えているのは、 綿密なコスト管理と、限界に近い経営努力。
光熱費や人件費が上昇しても、 スーパーが価格を簡単に上げることは難しく、 そのしわ寄せが生産現場に集中しています。
「もやしを適正価格で買う」という意識が広がらない限り、 持続可能な仕組みにはなりにくいのが現状です。
まとめ:20円の裏にある"緻密な工場経営”
もやし1袋の背後には、驚くほど精密な工程と経営努力があります。 短期間で育つ作物であること、ロスの少なさ、 そして大量生産による効率化が、この奇跡的な安さを支えています。
もやしは「安い野菜」ではなく、 「最も効率化された植物工場の成果」なのです。
あなたが次にスーパーで手に取るその1袋── たった20円の裏側には、緻密な管理と技術の結晶が詰まっています。